「突然呼び出してごめん」

北風が吹き込む屋上。冬だからか、屋上に私と彼以外は居なかった。野晒しにされた顔を冷たい手で触りながら、彼の言葉に一度頷く。早く教室に戻りたい一心で、一向に言葉を発しない彼に苛立ちを覚える。彼の頬が朱に染まっているのは、冷たい風の所為だろうか。それとも、

「好きなんだよ。お前の事」
「うん」

突如破られた静寂に驚くも、私は彼の言葉自体には大して驚かずに頷いた。そんな反応をされると思っていなかったのか、彼の瞳は丸くなる。強い風が、私と彼の髪を揺らしながら去っていった。風の音さえしない静寂が、又訪れる。彼は戸惑った様に私の顔色を伺っているけれど、何を求めているのか。それが解らず、私は不審気に首を傾げた。すると彼も鏡の様に首を傾げる。傍から見ればさぞかし間抜けだろう。客観的に想像してしまって、思わず笑った。彼は最初不思議そうな顔をしていたものの、何となく気が付いたのだろう。照れた様な笑みを浮かべた。そして、一言。

「付き合って欲しい」
「うん」

随分と呆気ない返答に、彼は顔を崩した。本当かと問い掛けてくる彼に、笑って肯定する。私は、此の寒い中好きでも何でも無い人間についていく程優しい人間では無い。彼――切原赤也だからこそ。と言っても、最初屋上にと聞かされた時は流石に顔を顰めた。別の場所でも良いだろうに。でも、必死な顔の切原を見ていたらそんな思考も馬鹿らしくなって、言われるがままに頷いてしまった訳だ。そして現在に至る。粗方予想は付いていた内容に、自分の勘も強ち馬鹿にしてはいけないと悟った。

「じゃあ、今日が記念日だ」
「そうだね」
「下の名前で、呼んでも良い?」
「うん、勿論」

。そう呼ばれた後、ぎゅうと抱き締められる。彼の温もり、擦れ違う時に香る匂いを間近に感じて、私も同じ様に抱き締め返した。赤也、と小さく彼の名前を呼んで。



プラトニックラバーズ

(09/12/12 加筆修正  ずっとずっと前から好きだと告げたら、貴方はどんな顔をするかしら)